狼の花園〈完〉【修正版】

苦難と試練 /黒幕



その頃、殿のいる町から遠く離れた場所で、花音は目を覚ました。


「…ん…?」


縄は解かれ、口を塞ぐ手拭いも無い。

周囲を見回すと、窓から射し込むオレンジ色の光が見えた。

どうやら、何処かの小屋にいるらしい。
物置小屋なのか、壺やら大きな箱やらが乱雑に置かれていた。


(…逃げなきゃ…!)


そう思って立ち上がろうとしたのだが、身体が痺れて動けない。

それでも なんとか木の床を這うように動き、戸に向かう。

やっとの思いで辿り着いた戸を開けようと手を伸ばすと、戸は先に開いた。

戸の外に先程の女がいて、花音を見下したように言う。


「あら、無理に動かない方が身の為よ。

三年前に殿に盛った毒とは違って、即効性は無いけれど、動くと毒が身体に早く回って、じきに呼吸が出来なくなる。

まぁ…、地面を這いつくばってでも、殿の元に帰りたいというのなら止めないけれど。」


「…!?」


その言葉に、花音は混乱した。


(えっ…!?殿様に…毒って…!?)


「…あなた…まさか…!」


顔から血の気が引いた花音に、女は答える。


「ああ、挨拶がまだでしたね。

私、千曲 信輝殿の正室、お七と申します。」


お七はクスッと笑ったが、その冷たい笑顔に花音は鳥肌が立った。


「…どうして…?なんで…?」


(殿様を毒殺しようとした人が…どうして ここに…!?)


状況が呑み込めない花音の問いに、お七は高笑いする。


「アハハハッ、それはどういう意味かしら?何故 竹代に私がいるのか?

それとも…何故 殿を殺そうとした私が、処刑されずに生きているのか?」


「………。」


花音は言葉を失って黙り込んだ。


(そうだ…!
奥座敷の人は誰も、その後 正室がどうなったのかなんて話さなかった。

でも私は、毒殺未遂なんて事をしたんだから処罰されてると、勝手に思ってたんだ…!)


顔を上げた花音が お七を見つめると、
お七は目を細めて言う。


「正室は藩主が幕府に差し出す人質。

何らかの理由で正室がいなくなれば、別の女を継室として江戸に置く筈。

でも、そんな話は聞かなかったのでしょう?
それどころか、あなたは私が生きている事も知らなかった。

あの人は…あなたに話していなかった。」

 

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