狼の花園〈完〉【修正版】



冷たい瞳で見つめられ、花音は息を呑んだ。
その首に手を伸ばした お七が、氷のように冷えた指で首を撫でながら言う。


「あの人…町であなたに笑顔を向けてた。
あの人のあんな顔、あの日から ずっと…見た事無かった。

私に苦しい思いを強いて、あの人だけ あんな顔して笑うなんて、許せない…!」


憎しみの込もった声を聞き、花音は目を見開く。


「…まさか…私を連れてきたのは…殿様を誘き出す為…!?」


すると お七はニヤリと笑った。


「そうよ。既に あなたの櫛と簪を、手紙と一緒に診療所に届けさせたわ。」


「えっ!?」


花音が髪に手を伸ばすと、そこに挿していた筈の櫛も簪も無い。


「…っ…!」


慌てる花音に、お七は愉快そうに言う。


「あの人…慌てるでしょうね。
取り乱しながら ここに来る あの人に、この手で復讐を果たす。

…愉しみだわ。」


そんな お七を睨み付け、花音は声を上げた。


「どうして そんな事を…!?
殿様の命を狙ったのに、命を助けられたんでしょ…?

復讐なんて…なんで…!?」


それに対し、お七は怒りの表情を見せて言う。


「助けられた?馬鹿な事 言わないで!

あいつらは、私を利用する為に生かしていただけよ!」


「…あいつら…?」


花音が眉をひそめると、お七は奥歯を噛み締めて答える。


「奉公先の商家も、金を融通して貰う為に私を養子にした武家も、
武士の世になって立場を失い、武家に恩を売る為に私を養子にした公家も、

そして何より、私が元々町民で、養子の養子なのだと知りつつ、正室として迎え入れた あの人の父親も…!

あの人を私が殺そうとした事で、家名に傷がつくとか、立場や体裁が悪くなるからとか、
そんな理由で、自分達を守る為に事実を隠蔽した!

私を生かしたまま、上座敷の奥に閉じ込めて、今までと変わらず正室として振る舞わせた…!」


「え…?」


(そんな事が…!?)


動揺する花音から離れ、お七は窓から外を見た。

視線の先で、太陽がゆっくりと山の端に向かって沈んでゆく。

それを見ながら、お七は呟いた。

 

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