狼の花園〈完〉【修正版】

苦難と試練 /意地



翌日。

花音は今まで通り、土間で洗濯をしていた。

ただ、途中で度々 昨夜の事を思い出し、顔を真っ赤にしては手を止める。

手で顔を扇ぐ花音の様子を遠くから窺っていた清白は、クスクス笑いながら仕事へ戻っていった。

殿は家臣達と話す事があって、中奥にいる。

何気なく顔を上げた花音は、ふと沙織の事を思い浮かべた。


(そういえば…沙織は私に何を伝えようとしてたんだろう…?

この先に起きる事って…?)


そんな事を考えながら花音は洗濯を続け、
仕事を終えて帰ってきた霞と共に、随分と少なくなった洗濯物を干す。

寒空の下だが、額には汗が浮かんでいた。


「よし、完璧!」


汗を拭いながら、胸を張った花音がそう呟いた頃、
中奥から殿が険しい表情で戻ってくる。


「殿、どうしました?」


霞が尋ねると、殿は花音をチラッと見て、顔を曇らせた。


「…家老達に、少しでも早く継室を…次の正室を江戸に置くよう言われた。

大名の正室なのだから、また身分の高い公家から貰い受けるのが良い…と。」


そう話し、殿は重い溜め息をつく。


「家老達の危惧している事は分かる。

外様大名が いつまでも江戸に正室を…人質を置かずにいれば、
幕府から要らぬ嫌疑を掛けられる。

お七の死を病死とした事も、迂闊に調べられては困るからな。」


それを聞いて、霞が言う。


「そういえば、お七殿を脅して利用していた商家ですが、江戸にも密かに鉄砲を運び込もうとして、役人に捕まったそうですね。」


「ああ、どうも そうらしい。江戸では鉄砲の持ち込みを厳しく取り締まっているからな。

あの商家が潰れたなら、竜の妹が狙われる心配も無くなる。

…だが、その件に竹代藩が関わっているのではないかという噂も立っていて、
それを否定する為にも、家老達は早く継室を置こうとしているようだ。」


殿は腕を組み、眉間に皺を寄せた。
花音も険しい表情で呟く。


「じゃあ…また お七さんのように、誰かを正室として江戸に…?」


すると殿は、目を細めて言う。


「もし そうなったとしても、俺が愛しているのは姫だけだ。」


けれど花音は首を振った。


「そうじゃなくて、
また お七さんのように、人質として江戸で不自由な生活をする人を選ぶのかと思ったら、なんだか心苦しくって…。

それに…」

 

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