狼の花園〈完〉【修正版】

苦難と試練 /暁更



「ちょっと入らせてよ!
江戸一番の役者が、中にいる姫に会いに来たんだからっ!」


人の声でガヤガヤと騒がしい玄関から、明るく快活な声が聞こえてくる。

警戒して槍を構えていた清白は、縁側に座っていた花音と顔を見合わせた。

声の主は屋敷の建物には入らず、外から中庭に回り、花音の姿を見つけるなり駆け寄る。


「あっ!いたー!!姫っ!元気だったー?」


「こ、小菊さん!?」


驚いて庭に出た花音が声を上げると、小菊は花音を押し倒すかのような勢いで抱きついた。


「姫が下屋敷に移ったって聞いたから、芝居終わって すぐに、急いで走って会いに来ちゃったよ~!」


そう話す小菊は、化粧を薄くし直して地味な紺色の着物を羽織っているが、
中の着物は赤に金糸の刺繍が施された、舞台用の派手な着物だ。

髪も舞台に出たままなのか、女物のカツラを被って、銀細工がキラキラと光る簪を挿している。

久し振りに会った小菊の明るい様子に、元気を貰った花音は笑みを浮かべた。


「会えて嬉しいです!
小菊さんの噂は聞いてますよ。幕府の将軍も見に来るような、凄い役者さんだって。」


すると小菊は胸を張って得意気に笑う。


「うふふっ、もっと褒めても良いよ?」


それから清白の姿を見て、


「お白さんも久し振り!あーもう!そんな物騒な物は仕舞って、仕舞って!」


と口を尖らせた。清白は苦笑して槍を置き、自分の為に用意した茶と菓子を小菊に渡す。

小菊は嬉しそうに瞳を輝かせ、菓子を受け取った。


「きゃ~!お白さん のお菓子も久し振り~!」


縁側に座った小菊が菓子を食べ始めたので、花音も隣に座る。

ふぅっと息を吐いた清白は、自分の菓子を取りに台所へ向かおうとした。

そんな時、


「おや、江戸一番の役者が、こんな所で油を売っていて良いのかな?」


小菊と同じように外から回って、鈴蘭が中庭に現れる。その姿は、武士らしい羽織袴だ。


「いいの!美味しいお菓子 優先!」


微笑んだ小菊が そう答えたが、清白と花音は目を見開いて鈴蘭を見る。

鈴蘭の後ろに、与市がいたからだ。

2人の視線に気付いた鈴蘭は、与市をちらっと見て言う。


「与市の事が気になる?」

 

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