狼の花園〈完〉【修正版】

偽者の日々 /賑わう城下町



2時間程の仮眠をとった花音は、顔を洗い、部屋で着物に着替えていた。

教わった通りに着替えられるか心配だったので、霞を部屋に呼び、間違っていないか確認しながら着替えてゆく。

そこへ、


「入るぞ。」


と、なんの躊躇いも遠慮もなく、襖を開けて殿が入ってきた。


「殿…!」


ハッとした霞が、正座して頭を下げたので、花音もそれに習って頭を下げる。

部屋に入るなり、殿は すぐに用件を言った。


「今日は外出日だが、お前は城にいろ。」


「えっ!?」


驚き、顔を上げた花音に、殿は冷たく言い放つ。


「外出は許可しない。
必要な物は、誰かに頼め。」


それだけ言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。


「…そんな…。」


(楽しみにしてたのに…。)


がっかりして落ち込む花音を見て、霞は側に寄って肩を撫でる。


「気を落とさないで下さい。今日は駄目でも、行く機会が きっとありますよ。」


「…霞さんは、行くんですよね?」


花音が尋ねると、霞は微笑んで首を振った。


「いいえ。行きませんよ。
私は…城から出られないんです。」


その答えに花音は首を傾げる。


「それって…、殿様に外出を禁止されてるって事ですか?」


「いいえ、違います。」


苦笑いした霞は、迷いのある表情で少し考えると、真顔で言う。


「……私はお尋ね者なんですよ。」


「えっ!?…どうして…?」


(霞さん、すごく真面目で優しい人なのに、お尋ね者なんて…。)


戸惑う花音に向かって、霞は答えずに寂しそうに微笑み返すだけ。


「…着替えが終わったら、声を掛けて下さい。外で待っていますから。」


そう言った霞は、静かに部屋の外に出ていった。


「………。」


(…霞さんにも、何か言えない秘密があるんだ…。
なんか寂しそうだったけど、私、力になれないかな?)


そんな事を考えながら、帯を締め、襟元を正す。


(…その為には まず、お仕事のお手伝いだよね!町に行けないのは残念だけど、お洗濯、頑張ろう!)

 

0
  • しおりをはさむ
  • 1771
  • 1486
/ 772ページ
このページを編集する