狼の花園 FAN 巻の弐〈全編完結〉

本編別エンディング4 /清八郎:内に秘めた心



それから数日が経った。

穏やかな日常が戻ってきたような感覚で、それぞれが自分の仕事をこなし、生き生きと過ごしている。

その中に花音もいて、仕事の手伝いをしながらも楽しそうにしていた。

霞や鈴蘭と共に、干してあった洗濯物を取り込む花音の様子を遠くから眺め、清白は台所頭の部屋に戻る。

この数日間、花音とは ろくに話をしていなかった。

清白が意図的に花音と会わないようにしていたからだ。


(会えば…姫ちゃんに対する想いが強くなるばかり…。

会わずにいる方がいい。
相手は側室だ。もし不義密通を疑われるような事をしたら…互いに死罪だ。

恋するなんて…許されない相手…)


己を強く戒め、清白は日々の仕事をこなしていた。

夜 遅くまで台所に残り、念入りに掃除をした後、
蝋燭の小さな灯りを頼りに奥座敷の自分の部屋へ戻る。

そんな時、


「…!」


自分の部屋の机の上に、着物が一着置かれていた。

それは紺色の縦縞の着物で、置き手紙が添えてある。


(…小菊ちゃんが仕立てた着物かな?)


と思い、手紙を手にした清白は目を見開いた。


『お仕事、お疲れ様です
小菊さんに教わって仕立てました
助けてもらったお礼です
ありがとうございました

           花音』


(…姫ちゃん…)


下唇を噛んだ清白は、思わず着物を抱き締める。

慣れないながらも、自分の為に一生懸命 仕立ててくれたのだと思うと、着物が愛おしく胸が熱くなった。

そうしていると、


「清白さん…今、いいですか?」


と、廊下から声がして、清白はハッとする。


「っ…!」


(姫ちゃん…!)


それが花音の声だと、清白は すぐに分かった。

襖を一枚隔てた向こうに、恋い焦がれる人がいる。

顔を見たかったし、会って着物の礼を言いたかった。

だが、


「…ごめんね、疲れてるんだ…」


想いをぎゅっと押し込めて、想いとは裏腹な事を清白は口にした。


(今 会ってしまったら…俺は…)


自分を律する事が出来なくなる気がして、清白は俯く。
少しの間の後、


「疲れてたのに ごめんなさい。…着物も…ごめんなさい、迷惑でしたね。」


そんな花音の言葉が襖の向こうから返ってきて、清白は声を上げた。


「違う…!」

 

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