白雪姫とヴァンパイア(1)【完】


まだ何か用があるのかな。
そんなことを思いながら、ぼんやりと見上げていれば。

左肩に、手を置かれ。
気付いたときには、ユエくんの顔が近づいていて。


左の頬に、軽く、柔らかな何かが触れる。


「A plus tard.」


耳元で囁くようなテノールがこそばゆい。
一瞬のことにぼんやりしていた私は、それでも感じられた温もりの意味を理解して、とっさに頬に手を当てた。

「いっ……い、今……っ!」

私の言葉に、ユエくんは何も返さなかった。


──ただ、ちょっぴり意地悪な笑顔を浮かべただけで。


そうして、何事もなかったかのように涼しい顔で、カロルさんの後をついていく。

その後姿を呆然と見送りながら、私は頬を強く抑えた。
そこには未だに、あの柔らかな感触がはっきりと残っている。


心臓の音が、煩い。

多分、私の顔は真っ赤だと思う。


未だ鮮明な感覚。
微かな、けれども確かに触れた温度。

それは決して、私が経験したことのないもので。


頬にだけど。
軽くではあるけれど……


……キス、された……!?


「……う、わあぁ……!」

理解しきった瞬間、顔全体に熱が集まる。
きっと私の顔は、未だかつてないくらいに赤いことだろう。
例え頬でもキスをされた経験なんて、私にはただの一度もない。

幸い誰も見てないけれど、それでもやっぱり恥かしいことに変わりはなくて。
誰にも会わないうちにと、私は慌ててその場を去る。

頬に当たる空気は、十一月ということもあって、ひんやりとしていて冷たい。


……けれども左の頬だけは、いつまでも熱いままだった。




(彼のことも、この熱も)
(当分忘れられそうにない)


title by 確かに恋だった

0
  • しおりをはさむ
  • 2575
  • 1094
/ 466ページ
このページを編集する