白雪姫とヴァンパイア(1)【完】

第一章 斯くて世界は廻り出す /幼馴染


目の前にあるのは、私の数学のノート。
今朝先生に教えてもらったばかりの解法をしっかり覚えようと、私はそれを必死に眺める。

……眺める、けれど。

「……うあああぁぁぁ……!」

あんなことがあった後で、集中できるはずもなく。
思わず声を上げながら、私は机に突っ伏した。

そんなことができるのも、教室に誰もいないからこそ。
私は普段はそう登校が早いわけでもないけれど、質問をするから部活の子を除いては一番最初に登校した。
つまり朝練で部活動の子がいない今、教室にいるのは私一人。

少しでも誰かが雑談でもしていたら、ここまで意識が持っていかれることもなかったはずだ。
……多分。

でも、静まり返った教室では、どうしても意識が今朝のことへと戻ってしまう。
……どうしたって、忘れられるはずもない。

左の頬には、未だにキスされた時のあの温度が残っていて。
瞼の裏には、あの時見た彼のイジワルな笑顔がある。

あんなこと、日本じゃ恋人同士でもない限り、滅多にされることはないし。
そんなことされた記憶のない私には、心臓が止まるほど、なんて表現しても過言じゃないくらいに衝撃的だったから。

「あれは挨拶……! そう、きっとフランス流の……!!」

ブツブツと呟いてみる。
いわゆる自己暗示だ。

彼はフランスにいたわけだから、きっとああいう挨拶がきっと日常的に行われていたに違いない。
……と思う。

フランスの文化には詳しくないけど、きっとそうだ。
というか、そうでなかったらあの行動の意味が分からない。

なんて考えながら冷静になろうとしてみるけれど、それで平気になったら誰も苦労なんかしないんだろう。

しばらくの間、必死に自分へと言い聞かせてはみたものの、結局効果は全くなくて。
未だに戸惑いやら気恥ずかしさやらが消えない自分に溜め息をつきつつ、ぐでっと机の上で伸びた。

「……深い意味は、ないよね……」

何となく、左の頬に触れてみる。
そこには未だに感覚があって、またはっきりと思い出されたそれに私はぶんぶんと大きく首を振った。

深い意味なんてあるはずがない。
だって私は残念ながら平々凡々な一般人、彼みたいに一目でトクベツだと分かる人とは根本的に違うのだから。

そこだけは冷静に判断しながら、改めて彼のことを思い出す。

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