白雪姫とヴァンパイア(1)【完】


「……ユエくん、かぁ……」

久しぶり、と、彼は言った。
それはつまり、昔に彼と私が会っているという証拠のようなもの。

けれども、私にその記憶はない。


……それはきっと、私が忘れてしまったからだ。


五年前のあの日から、私の記憶は曖昧になった。
……というよりも、ほとんどのことを忘れてるんだ。

「そうじゃなきゃ……」

彼のような人を、忘れてしまうはずがない。

外見、雰囲気、纏う空気も、何もかも、あんなに全てが特別な男の子。

最初に見た顔は無表情そのものだった。
綺麗に整った顔立ちと相まって、まるで人形みたいにも見えるけれど、やっぱり人形とは違う。

強い瞳だったと思う。
それこそ、はっきりと"生きてる”ことを示す目をしてたから。

クールな子なのかな、って最初は思った。
何となく、一人が好きそうな……人を寄せ付けないような、近づくことすら躊躇わせる雰囲気があった。

母親であるカロルさんとは、全く異なるその印象に。


……正直、苦手かもしれない。

そう、思ったけど、浮かべた笑顔は優しくて。

穏やかなそれに、ただ純粋に、綺麗だと惹かれたのも事実。

決して冷たい人じゃないんだと、そう感じさせる笑顔だった。


……なのにあの唐突すぎる一件で、彼がどういう人なのかが全く分からなくなってしまった。


「なんでいきなりあんなこと……あぁもう……っ!」

第一印象と違いすぎるというか、むしろ斜め上すぎて印象どころじゃないというか。
そもそもどういう意図があっての行動だったのか、それすら私には分からない。

挨拶なんだろうか。
いや、だとしたらあのイジワルな笑顔の意味は何だ。
確信犯の笑みに見えなくもなかったんだけど。

どんなに頭の中で考えようと、結論が出てくるはずもなく。


……別の意味で、苦手になりそうだ。


そんなことを、ただ漠然と考えていた。



* * * * *



「おはよう、姫ちゃんっ!」

「あ……おはよう、マッチ」

勉強しつつも一人苦悩していたところに、明るく可愛い声が響いた。
それに私が振り返れば、そのソプラノに相応しい容姿の女の子がこちらへと小走りにやってくる。

マッチ。
林万智。

私の小学校からの友達。
与えるイメージは、きっと白兎ってところだろうか。

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