白雪姫とヴァンパイア(1)【完】

第三章 君との絆、繋ぐのは /ふたり



「Bonjour,由季」

「……おはよう」

玄関を出れば振り返る綺麗な顔。
今日二度目になる挨拶を口にする月に、私は軽く言葉を返した。

まだ朝なのに二度目……
何だか不思議な気分だ。

ぼんやりと月を見ながら隣に並べば、「そうだ」と言いながら月が自分の鞄を開ける。

「先に渡しておく」

「え……」

何だろうと思ってそれを眺めれば、月は鞄から何かを取り出した。
落ち着いた色合いのナフキンに丁寧に包まれた、四角いそれは。

「……お弁当?」

理解しつつも尋ねてみれば、月が薄い笑顔を浮かべる。

「たまには由季も、友人と食べたいだろう?」

そう言って、にっこりと笑みを浮かべた月に。
私は何度か月とお弁当を交互に見つめて、ようやく理解して。

それから、思わず笑顔を零した。

「ありがとうっ!」

中学までは給食が出たけれど、高校に給食はない。
必然的にお弁当を持って来なければならなくなったけど、私にはお弁当がない。

そのかわりお昼代をもらってるけど、購買で買えるのはパンがほとんど。
だから、一度もクラスの皆と一緒に“お弁当”を食べたことはなかった。

嬉しくて何度も何度も受け取ったお弁当を眺めていれば、月は柔らかく目を細めた。
そうして、私に顔を近付ける。

見れば、そこに浮かんでいるのは笑み。

楽しそうで──イジワルな、あの笑顔。

「“人前で”渡すと、また由季が恥かしがるからな」

「なっ……!」

わざわざ“人前で”を強調する月に、思わず顔が赤くなる。
意地悪く口角を上げる月は、絶対に確信犯だ。

何か反論したいけど、そんなことされれば恥かしいのは事実だし。

「……っ、もう行くっ!」

結局何も言い返せずに、私は急いで鞄にお弁当をしまうと早足に歩き出す。
そうすれば、月は「そうだな」なんて言いながら笑顔で隣に並ぶ。

私がどんなに頑張って早足に歩こうと、苦もなく隣に並べる月が悔しい。

……反面、いつも歩くとき隣に並んでるのは、私に合わせてくれてるのかな、なんて。
そんな考えが浮かんできて、私は慌ててその考えを消す。

多分、月は優しいから。
だから、他の人の速度に合わせて歩く性分なんだろう。


“私に”じゃない。

──“他の人に”だ。


そう思い直して、私は鞄にかけた手に力を込めた。

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