白雪姫とヴァンパイア(1)【完】

第四章 姫君と薔薇 /過去への序曲



闇に満ちた時刻。
僅かな星明りの下で、二人の男性が佇んでいる。

人の好い笑顔を浮かべた壮年の男性と、その傍らに佇む細身のやや若い男。

彼らに向けて静かな夜風が吹き抜けて。
次の瞬間、目の前には漆黒のマントと燕尾服を身に纏った人物が舞い降りていた。

プラチナブロンドの真っ直ぐな髪。
冷めた風に靡くその髪の下にあるのは、酷く美しい顔立ち。

そして、特徴的なまでの真っ赤な瞳を持つ少年……

その姿に、男性は人の好い笑顔を更に深いものにした。

「久しぶりだね、ユエ・アカギ」

「ああ……」

男性の言葉に少年……月もまた薄く微笑すると、僅かに首を傾げつつ男性を見る。

「半年振り、といったところか」

「そうなるね」

月の問いかけに頷いて、男性は苦笑にも似た笑みを浮かべた。

「忙しい中、また頼んでしまって申し訳ない」

「いや……」

構わない、と言いかけた月は。
ふと言葉を区切り、それから改めて口を開く。

「それよりも、」

そう切り出した表情は、どこか不敵にも見える笑顔で。


「 母国語で話して頂いて結構だが? 」


片言で、異国語である日本語を話す男性に。
月が男性の母国語で流暢に話せば、男性は僅かに目を見開き。

それから、感心と苦笑とを混ぜ合わせた表情を浮かべた。

「 相変わらず、君は語学が堪能だね 」

「 それほどでもない 」

何でもないことのように返す月に、男性は再び柔らかな微笑を向ける。

「 未だドイツにいたのかな? 」

その問いかけに、月は小さく首を振った。

「 いや、今は日本に帰国していた 」

「 そうなのかい? 」

その返答が意外なものだったのだろう。
男性は僅かに目を瞠った後、「 それは済まなかったね 」と続けた。

「 しかし、珍しいね……日本は数年ぶりではなかったかな? 」

「 ああ 」

男性の言葉に短く肯定した月は、しかしそれ以上の説明を続けることはなく。

その赤い瞳は、先ほどから微笑を浮かべる男性の隣に立っている、見慣れぬ男へと向けられた。

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