白雪姫とヴァンパイア(1)【完】

第一章 斯くて世界は廻り出す /吸血鬼


もう定位置になりつつある、窓辺に置かれたミカン箱。
その上に広げてあるのは、生物の教科書。

「……はぁ……」

……どうして、こんなにできないんだろう……

理系科目は、サッパリで。
文系科目は、英語がやっぱりできない。

だからこそ、高校で大学付属の私立に入ったわけだけど……

そうでなければ、お金の負担になるようなことはしたくなかった。

お祖父さんはもう高齢。
年金暮らしをしているお祖父さんには、私の学費はかなりの負担だ。

お父さんの残してくれた遺産もあるし、保険金だって入ってきたけど。
できることなら、なるべく多く弟二人に使わせてあげたい。

叔母さん夫婦だって、きっとそう思ってるし。
そうするのが、当然だと思う。


……私はお父さんと、血が繋がってなかったから。


「……あーあ……」

シャーペンを転がして、窓の外を見る。

数学の参考書なんて暗号にしか見えないし、生物だって覚えた端から忘れてく。
毎日こうして予習も復習もしてるけど、きちんとできてる気がしない。

そうこうしているうちに、明かりだった星は雲に包まれて隠される。
……これはもう、文字を読み取るのは無理かな。

ため息をついて、参考書を片付ける。
時計を見れば、午前三時を差していた。

……そろそろ寝る時間だな。

ミカン箱の上に、使い慣れたメガネを置く。
一つ伸びをした私は、不意に変な音を聞いた。

《……ォォォオォォ……》

風のような、けれども何かの鳴き声のような、声。
聞こえてくるのは、外からだ。

「……何だろ?」

野良猫とか、そういうものじゃない。
もっと低かったし、聞き慣れないものだった。

白のネグリジェの上からカーディガンを羽織って、私はベランダの窓を開けた。

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