白雪姫とヴァンパイア(1)【完】


午前中の四時間は、すごく、すごく長かった。

……それはきっと、月に気付かれないか心配だったから。


月は、吸血鬼。
月は、人間が嫌い。
……月は、すごく、優しいから。

だから、こんな私のことも、すごく心配してくれる。


『……一人で無茶をしてくれるなよ』


そう言ってくれる人は、私の周りにはほとんどいない。

だけど、せっかく月も高校生になって。
女の子にだって、人気で。


……マッチが、仲良くなりたそうにしてる。


倉前くんにだって、「よろしく」って言われてたし。
もしかしたら、仲良くなれるかもしれない。

その月に、手紙のことを任された、なんて言ったら……

きっと、私を心配する。
そして、多分、みんなにいい印象を持たないと思う。


だから、月には秘密にしたい。


こんなささいなことで、せっかくのチャンスを無駄にさせたくない。
それも、他でもない私のせいで。

大したことじゃ、ないから。
だから月には、気にしないでほしい。


……大丈夫。
大丈夫だよ。


無茶なんかじゃ、ない。


言い聞かせて、私はチャイムと同時に席を立つ。
きっとお弁当を作ってきてくれてるんだろう、月に視線を向ける。

「ちょっと用事あるから、行ってくるね」

こそりと、小さい声で言う。
さすがに普通の声で言えば誰かに聞こえちゃうし。
……あの人気っぷりを考えると、それはとてもよろしくない。

だけど月は、すぐに顔を上げて私を見た。

「……由季、まさか」

「ごめん、屋上で待ってて!」

誤魔化せては、いないと思う。
……正直、月には嘘はつけないとすら思ってる。

だから、ちゃんと頼みをこなして。

「大丈夫だったよ」って、「大したことじゃなかったよ」って、言わないと。

そうやって証明すれば、きっとわかってくれるから。


……だから。


「赤城くんっ! 一緒にお昼食べようよっ!」


聞こえてきた可愛い声を振り切って、私は廊下を駆け抜けた。

0
  • しおりをはさむ
  • 2575
  • 1093
/ 466ページ
このページを編集する