白雪姫とヴァンパイア(2)【完】

第五章 月光囁く夜の唄 /万智の場合



訪れたのは、白い世界。
霧がかったようなそこは、前後も左右も景色がはっきりとしない場所だけど。

そんな中で、思うことはただ一つ。


……あの人も、今この場所にいるんだろうか。


真っ直ぐに伸びた髪も、纏う着物も、そこから露出した肌も、何もかもが白い人。
それでいて、瞳は吸い込まれそうなほどに澄んだ蒼。

儚げで、とても綺麗な顔をした、あの人。


不明瞭な地面を歩き続けながら、私はとにかく前へと進む。
ここが夢の世界であれば、きっといつかは覚めてしまう。

だからこそ、後悔したくはなくて。

そうして歩き続けていれば、不意に風が吹き抜けた。
瞬間、景色がはっきりと目に映る。

何故か色は感じられない、けれどもはっきりと見えるのは、森。

周囲を囲む木々の中、私はやや狭いながらも拓けた場所に立っていた。

そうして視界に入ったのは。


──切り株に腰掛ける、あの人だった。


「……、」

ごくりと息を飲んで、私はそっと歩み寄る。
背中を向けているあの人は、決して私を振り返らない。

気付いていないのか、それとも関心がないだけか。

判断ができないけれど、それでも佇んでいるわけにもいかず。
数歩残したところで足を止め、私はそっと唇を開く。

「……っ、あの!」

声をかければ、数秒の間を空けた後、ゆっくりとその人が振り返る。
相変わらず、整っている顔立ち。
儚げに思えたそれは、今はどこか幼さを感じる。

それはきっと、そこに感情が浮かんでいないから。
どことなくぼんやりとした表情に、意思があまり感じられないからだろう。

じっと私に向けられた瞳も、どこか空虚なものに思えて。
見ている、というよりも、ただただ私を映しているだけに見えた。

「……その、」

声をかけたはいいものの、その後が何も続かない。

そんな私に、その人もまた何かを言うこともなく。

その人が抱えた鏡に視線を落としたり、色々彷徨わせながら。
それでも何か言わなければと、焦りにも似た義務を感じて。

「……白井由季って、いいます」

ありきたりな、自己紹介。
名前を名乗って、じっとその人に視線を向ける。

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