白雪姫とヴァンパイア(2)【完】

第四章 姫君と薔薇 /月光


月の家へと上がらせて貰って、その上お風呂まで借りてる。
そんな状況を申し訳なく思いながらも……どこか私の意識は虚ろで。

ぼんやりと、今の自分の状態を考えても、まるで夢を見ているかのように現実味を感じられず。
それでも唐突に蘇る声に意識を覚醒させては、これが現実なんだと思い知る。



『現実見ろよ』



「……っ、」

頭の中で響いた声に、反射的に起こした身体が湯船の水を跳ね上げる。

その音が聞こえたんだろう。
扉のすぐ向こうに座っている月が、曇りガラスの向こうで顔を上げたのが分かった。

「由季?」

「な……何でもない……っ!」

とっさに否定の言葉を返す。
……それは“何かあった”と伝えているようなものだと、言った後に気付いたけど。

それ以外に、返すことなんてできなくて。

「ちょっと、ぼーっとしちゃった、だけだから……!」

「……そうか」

きっと、鋭い月には完全に悟られてるだろうけど。

月は私の心を酌んだのか、それ以上問いかけてくることはなかった。

……それで良かったんだと思う。


きっと、月に尋ねられたら。

全部、話してしまいそうで。



それはつまり、月に甘えるってことだから。




『好きでもねーくせに頼るだけ頼るわ愚痴るわ甘えるわ、そのくせこっちに何してくれるわけでもねーし?』



あの時と同じ事を、繰り返したくはない。


月は私より年上で、長生きをしてて、頼りになって……私を、大事にしてくれるけど。
だけど……だからこそ。


私はそれに、決して甘えるべきじゃない。


それでも沈黙が気になる私は、わがままと言うか。
嘘をついたことへの罪悪感と、一つの疑問に、私はおずおずと口を開いた。

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