白雪姫とヴァンパイア(2)【完】

第五章 月光囁く夜の唄 /近付くために、もう一歩



早朝。
由季の部屋から自宅へと戻った月は、誰もいないリビングで一人受話器を手に取った。

ソファへと腰を下ろし、子機を耳に当てること数秒。
視線を僅かに上方へと向けていた月は、機械が響かせた小さな音に唇を開いた。

受話器越しに聞こえてくるのは、男性の声。

「……Grand-Pere?」

口にしたのは、フランス語。
しかし月の耳に入るのは、また別の国の言葉であり。

「 ああ…… 」

それに戸惑うことなくドイツ語で相槌を打つと、月はそっと目を伏せる。
口元に浮かんでいるのは、薄い笑み。

「 予定通り、二人でそちらに行かせて貰う 」

長い足を組み、背凭れへと寄り掛かりながら告げた直後。
相手方の言葉に、月はそっと目を開いた。

「 エリク? ……ああ、 」

僅かに首を傾げたものの、すぐに納得したのだろう。
長い睫毛に縁取られた目を伏せがちにしつつ、さして問題もなさげに口を開く。

「 そちらの件も、必要であれば話しておくが…… 」

相手へそう提案しつつ、思い浮かべるのは一人の少女。
しかし電話越しに放たれた言葉に、月は再び首を傾げた。

「 ……そうか? 」

相手のセリフに、月が即座に納得するようなことはなく。
穏やかながらも力強く紡がれる相手方の返答に、月はそっと目を細める。

「 ……やけに自信があるように聞こえるが……まあ良い 」

前髪を軽く掻き上げてから、深入りすることなく目を閉じた。

「 ではまた連絡する……ん? 」

月が切り上げようとした瞬間、向こう側で何やら主張する声がして。
何だと耳を傾けた月だったか、その表情は徐々に苦いものへと変わる。

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