車椅子でキス
5.瞳
歩いて正解だった。
人目は気にしなくてはいけないけれど、夕焼け色に染まるハルさんは、いつまででも見つめていたいほどに、美しく輝いている……。
それは、世の女性がやきもちを妬いてしまう程……。
「手、繋げなくてごめんね」
もう何度目かのその言葉。
一緒に住む前から、ハルさんはいつもそう言う。
「もう少し暗かったらな~」
「暗くてもいけませんよ」
「暗ければいいよ!」
「いけません」
みるみるハルさんの頬が膨らんでいく。
それがリスのように可愛くて、私の口元は緩んでしまうから、ハルさんは罪な人。
「カエルみたいな目して、よく言うよ!」
「カエル!?何てことを……」
「カエルじゃん!……そんな可愛いカエル、超レアだけどさ」
涙で腫れた目のことだろう。
褒められているのか、貶されているのかわからない。
「……どっちですか」
「……褒めてる」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
ゆったり歩いて、気がつけば周りには車がいなくなっていた。
総合ランキング4242位獲得!(2016年03月)