キスまでの距離

第2章 恋の始まり

愛梨は新曲のレッスンを受けていた。
「歌が変わったね。声に切なさが感じられる。恋でもした?」
滝野に言われて愛梨は驚いていた。
「戸惑っているようだね。もう一度最初から」
愛梨は艶っぽい歌声を響かせた。

喫茶店の中にはカップルらしい男女が居て、楽しそうに話をしている。
女の子は笑っていた。
いいな……私も宙とこんな風に喫茶店とか行きたかったな。
そう思いながら窓の外を見ていた時、突然、客の1人が愛梨に声を掛けて来た。
「馬場愛梨さんだよね。大ファンなんです。サインお願い出来ますか?」
男性は40歳ぐらいである。手帳を開いている。
「はい」
愛梨はサインした。
「ありがとうございます。これからも応援しています」
男が去ると愛梨は目頭が熱くなって来た。
そこへ希美加がやって来た。
愛梨はその時涙が止まらなくなった。
希美加は愛梨を抱きしめている。
「ごめん……希美加」
「いいのよ。愛梨。気がすむまで泣いたらいいの」

「落ち着いた?」
「うん」
愛梨は温かいコーヒーをゆっくり飲んだ。
喫茶店の中には愛梨達しかいない。
穏やかな時間が流れていた。
「好きだったのね…… 」
「私ってバカよね。別れてから分かるなんて
……いつの間にかこんなに好きになっていた事に」
希美加は愛梨を見つめた。
「でも愛梨はこの道を選んだんだよね」
「うん。友達の切ない気持ちも今はもっと分かる。私じゃ出来ない事も、彼女となら全部出来る。普通が出来るの」
愛梨の声が微かに震えた。
愛梨の話を聞いて希美加は優しくその手を握った。
「普通っていいね」
「うん。凄く大事な事だよね」

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