アザレアが咲いている。

虎の子と醜いアヒル





***
 

 
 
目が覚めると、私は見知らぬ場所にいた。
 
 

 
 
一面に広がる黒、黒、黒。
 
スプリングが効いたベッドの上で、テレビとテーブルとクローゼット、それから小さな冷蔵庫しかない寂しい部屋を、黒のシーツに纏われて見回す私の姿が取り付けの鏡に映り込む。
 

 
その先に上半身裸の男を見つけて、ポツリと声がこぼれた。
 
 
 
 
 
 
「………ここ、どこ」
 
 
「…あぁ、起きたのか」
 
 
 
 
 
こちらに背を向けて携帯を見ていた黒髪が、ゆらりと振り返る。
 
 
引き締まった体に、
男らしい薄い唇と細められた目。
 


姿だけ見れば恭だとわかるのだが寝起きでボケボケの頭には昨日の出来事が思い出せなくて。
 
 
 
眠気からまだぼーっとする私に、恭が優しく指で髪をとく。
 
 
 
その仕草一つで、昨日の記憶が鮮明に蘇った。
 
 
 
 
 
…そうか。
私、あのまま爆睡しちゃったんだ。
 
 
 
車の中でうとうとしていた自分を思い出して、今の状況を理解する。
 
 
 
喉はガッラガラ、しかも少し蒸し暑くてだるい体をゆっくりと起こすと、ベッドの淵に腰掛けていた恭はすぐさま腰に手を回してくれた。
 
 
その素早さに少しばかり経験の差が垣間見れるのは黙っておこう。
 
 
 

 
 
「あの…」
 
 
「なんだ」
 
 
「ここって……恭の部屋?」
 
 
 
 
なんとなく、いかにもな室内の雰囲気に、ほんとになんとなく聞けば、あぁ、と恭からは肯定の返事が返ってくる。
 
 
 
…どうやら車からここまで、恭が運んでくれたらしい。
 
 
お前はもう少し太れなんて言いながらそばにあった水を飲んでるあたり、間違いない。
 
 
 
 
 
 
「…運んでくれてありがとう」
 
 
 
 
 
いくら男でも、爆睡してる女を運ぶのは結構しんどいのに申し訳ない。
 
 
それなのに恭は何も言わず、水を飲み干してふっと微笑んだ。
 
 

 

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