アザレアが咲いている。

性悪な女



 
 
『ねぇ凛。これ、なーに?』
 
 
 
 
そう言ってニコニコ笑いながら突き出されるぐしゃぐしゃの紙を、気まずそうに見つめるのは小学生の頃の私。
 
 
今よりもだいぶ幼くて、ランドセルを背負いながら俯く私に、兄は目線を合わせるようにしゃがみ込む。
 
 
 
 
目の前には、私と同じ顔。
 
 
よく似た兄妹だと噂されていたものの、兄はすでに成人済みで。
 

いくら同じような顔だといっても、威圧感に天と地のような差が生じる。
 
 
 
 
 
そんな兄の裏側を知っている私は、ニコニコ笑顔を浮かべる我が兄に物凄い恐怖を覚えた。
 
 
 
 
 
 
『授業参観日のお知らせ…これ、今日だよね?なんで言わなかったの?』
 
 
 
 
ん?と、笑みを浮かべて優しい声で問いかけてくる彼に、幼ない私は半泣きで言葉を紡ぐ。
 
 
 
 
 
 
『…龍ちゃん、嫌でしょ?』
 
 
『何が?』
 
 
『お仕事忙しいし…私の授業受けてる姿見ても、きっと楽しくないから』
 
 
 
 
 
そういった私に、
彼は困ったように眉を下げた。
 
 
 
 
 
昔の私は随分遠慮しいだったと思う。
 
 
表向きは母親が病死、
父親は事故死という小説にはありきたりな設定を担っていた私は、ほとんど兄に育ててもらったようなもんだった。
 
 
 
 
親が死んだというのに泣きもせずただただ棺を眺める私。
 

それを気味悪がって距離をとる、薄情な親戚達。
 
 

…多分、私はこの時から少しズレていたんだろう。
 
 
 
 
 
 
幼いながら、親戚達の口から吐き出される毒にただただ耳を傾けて…
 
 
 
 
 
 
 
一体、誰が引き取るんだよ…
 
 
私のとこは嫌よ、あんな子供…
 
 
うちも金銭的にちょっと…
 
 
いっその事施設に…
 
 
あんな恐ろしい子、
精神科に連れてった方がいいわ…
 
 
 
 
 
泣いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そうやって、皆が皆、私を否定する。
 

そんな中から救い出してくれたのは、親の死を聞いてとんできてくれた、当時高校生の兄だった。
 
 
どうして出て行ったからは知らない。

だけど高校生になった途端姿を消した兄は、葬儀場でポツンと佇む私を見つけてフラフラとした足取りで私を抱きしめた。
 
 
 
 
 
 
 
『…ごめんな、凛。ほんとに…っごめん、な…っ』
 
 
『…龍、ちゃん?』
 
 
 
 
 
 
どうして兄が謝ったのか、
当時の私はまったくわからなかったけど。
 
 
 
ただ一つ鮮明に思い出せるのは、親戚達に土下座して私を守る、兄の広い背中だけだった。
 
 
 

0
  • しおりをはさむ
  • 1232
  • 543
/ 254ページ
このページを編集する