ファシネーション【完】

第1章 /引っ越し



2日後。あの出会いから早1週間。
5月17日の今日は、もうすっかり真夏日。


持っていく荷物が大きなカバン3つで収まったのは良かったけれど、そこから半袖を引っ張り出すといういらない苦労をした気がする。






「じゃあ、私行くね」



独身生活最後の、3人での昼食を終えたあと。


玄関前にカバンを置き、父と母に向き合う。今までこの家を出たことがないから、2人、寂しがらないと良いけど……。



2人はなんとも言えないぎこちない笑顔を浮かべて私を見つめていた。




「元気でやるんだぞ。あちらさんにご迷惑かけないように、そうだ、新しい仕事も頑張れ」


「菜緒、身体にはくれぐれも気をつけてね。たまにはお顔を見せてちょうだいね」


「うん。今日か明日には婚姻届が来ると思うから、記入お願いね。2人も元気で。またそのうち帰ってくるからね。じゃあ、行ってきます」



手を振り合って、私は家を出た。
すぐそこにはこないだと同じ、黒光りのタクシー。


今回もあの白髪のおじさんだった。
荷物を察して外で待っていてくれた。

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