夜の牙 下 【完】








「豹は、悠理くんを知ってるの?」



尋ねた私に、豹は考え込むように首を傾げた。



濡れた髪が微かに揺れる。



「まあ、知ってると言えば知ってるって程度」


「……やっぱりさ、」



私と豹は大体毎日会っている。



けれど、平日は私も学校があるし、驚いた事に豹も仕事をしている。


…非常に驚いた事に。



私も豹もお互いにお互いの知らない時間があって、何かしらをして過ごしている。



私は勉強をしているかもしれないし、もしかすれば豹は喧嘩をしているかもしれない。



「…ん、なに?」



私の髪を指で梳きながら、黙った私を促すように豹は言う。



「…ううん、なんでもない」


「えー気になる」



唇を尖らせた豹を見上げて、私は小さく笑った。



豹は意外そうに瞳を丸くして、私を見下ろす。




春瀬さんに会った路地。


あの時、あそこに豹がいたのは多分私の気のせいじゃない。

見間違いじゃない。



それでも別に構わなかった。



だって豹だから。



そんな単純な理由と豹の温もりで、私は安心感に包まれていた。





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