夜の牙 下 【完】

第五章 /狡猾





「何がいい?」


「…」


「おい、」


「…」


「おいってば!」


「っぎゃ、」



考え事をしていた私の前に、突然輝くんがグラスを叩き置いた。



それに驚いて、イスからずり落ちる。


バーの、さして綺麗でもない床に後頭部をぶつけるのかと身構えれば、ふわりと甘い匂いが私を包んだ。



「…ぁ」


「もー、藍危ないじゃん」


「ご、ごめん」



後ろから私を抱きとめた豹に、上擦った声しか出なくて困る。



「………悪い」



相変わらず不機嫌面だが、罰が悪そうに言う輝くん。


そんな彼に、後ろから豹に抱えられたままの情けない姿で私は慌てて口を開いた。



「あ、私の方こそごめんっ」





0
  • しおりをはさむ
  • 3128
  • 20696
/ 371ページ
このページを編集する