束縛~愛と欲望に溺れた兄~【完】

第3章 選択 /嫌な予感~晋介side~

『お掛けになった電話は現在電波の届かない場所にあるか、電源が切られているためお掛けできません』

携帯からそんな声が聞こえた。

「チッ…どうして出ないんだ」

俺は声を漏らした。

「先生…大丈夫ですか?」

そんな俺を心配して佐々木が声をかけてくれる。俺はそんなに深刻そうな顔をしているだろうか?

「あぁ。大丈夫だ」

カチャリと音がしたかと思えば、佐々木がコーヒーを置いてくれていた。

「ありがとう」
「いえ」
「いつも悪いな」

そう言うと佐々木は「先生の役に少しでもたちたいので」と笑うが、俺は佐々木はいい部下だと思う。

コーヒーは美味いし、仕事も早いし。
むしろ尊敬してしまう程だ。

「はぁ…」

佐々木の入れたコーヒーを口に運びながら、携帯を睨む。

「妹さん…ですか?」
「え…?」
「あ、す、すいません!!」

何も言っていないのに謝る佐々木。

「いや、謝る必要はないよ」
「あ、すいません」
「はは。君は本当に薫に次いで勘がいいね」

俺は誉めたつもりだったのだが、逆にまた謝られてしまった。

俺って結構、信用できない奴なのか。

たまにそう思う。

「そうだね。妹のことで少し…ね」
「そうですか…」

そう言って佐々木は、自分のデスクに戻った。

もう一度咲良に電話をかけてみる。

しかし、やっぱり出ない。

何故か嫌な予感が頭を横切っていく。

「絶対ない」

佐々木がこちらを向いた。

不思議そうな目で俺を見ている。

「すまない」

無意識に声に出ていたようだ。

再び佐々木は自分のデスクに向かい、仕事を再開させた。

俺の口からまた、ため息が漏れた。
腕時計に視線を落とす。

現在5時半。
この時間帯なら家に帰っていてもおかしくはない。

ん…?待てよ?

もしかして、電話に“出ない”んじゃなくて、“出られない”んじゃないだろうか?
俺は慌てて、スーツと鞄を持ちドアへと向かう。

「すまないが、俺は先に上がる。戸締まりもしといてくれ」
「分かりました。お気をつけて」

急いで階段をおり、駐車場に停めていた車に乗った。

気持ちがどんどん先走っていく。

早く早く…。
早く帰りたい。

その一心で家に向かった。

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