束縛~愛と欲望に溺れた兄~【完】

第5章 抜け出せない地獄 /兄と先生と私~咲良side~

その日の夜のことだった。

…コツ、コツ、コツ。

扉の向こうで音がした。
その音で目が覚める。

誰かが歩いている、それだけ理解できた。

看護婦さんかと思ったがそれはない。
ヒールなんてついてないもの。だから音は、鳴らない。

確かに一歩一歩着実にこちらに向かって歩いてきているようだ。

次第に音は大きくなっていく。

カツ、コツ、カツ…。

まもなくその足音は私の病室の前で止まった。

「え…?」

私の動きも止まった。

心臓がうるさく騒ぎ出す。
恐怖が私を包む。

そしてゆっくりと、扉が開いた。

「ひぃ…!!」

…声が出ない。

怖いのに、怖くて仕方ないのに、声が出ない。

「こんばんわ」
「…ぁ、あ、や…」

私の手は無意識に震えていた。
逃げ出したいのに足がすくんで動けそうにない。

「久しぶりだね、咲良」

身体が強張る。

「お、兄…ちゃん…」

嫌な予感が的中した。
まだ、目が覚めていないはずじゃ…。

『いつ目が覚めてもおかしくはない』

薫さんの言葉を思い出した。
だけど、私より深い傷を負っていたのに何故、歩けるの…。

「咲良にまだ話してないことがあった」

真っ直ぐお兄ちゃんは私を見た。

「話してないこと…?」

恐怖より好奇心が私の背中を押した。

「そう。咲良の先生のことだ」
「なんで…」

お兄ちゃんと先生のどこが関係あるというのだろうか。

「俺達はもともと三人兄弟だったんだ」

落ち着いた口調で話し出した。

話している最中も目を光らせ、私を見張っているような気がする。

しかし、三人兄弟なんて今まで一度も聞いたことがなかった。

「その人は、私よりも年上?」

お兄ちゃんは無言で頷いた。
一体誰なんだろう。

すると、お兄ちゃんは再びゆっくりと口を開いた。

「咲良もよく知ってるだろ」

私も知ってる…?

「咲良の学校にいる奴」

また焦らされた。

「誰…」
「駿河って奴だよ」

駿河先生が私の兄?
ちょっと待って…。
駿河先生は苗字が違うはずじゃ…。

それにただの幼馴染だって…。

「あいつは違う奴になりきってる」
「偽名…?」
「そうだ。しっかし、誰かに似ていると思ったら、あいつだったのか」

お兄ちゃんは頭を掻いた。

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