風花 〜彼方への約束〜

第四章 /朔風 〜サクフウ〜

ふと、額に柔らかな感触を感じて目を覚ました。

薄っすらと目を開けると辺りはもう真っ暗で、いつのまにか夜の帳が下りていたことを知る。

まだ頭はボーッとしていていたけど、熱がある時のあの独特の身体のダルさは消えていた。


「ごめん、、、。起こしちゃった?」


暗闇から優しい声が降ってきて、額に触れているのは手のひらだと気づく。

その指先が、私の前髪を搔き上げるように優しく頭を撫でる。


いつ帰ってきたの?とか、楠木様はどんな方だった?とか、はぐれてごめんなさい、とか。

話したいことは色々あるはずなのに、なんだか言葉にならなくて、ただ黙って首を横に振る。


「帰ってきたら、熱を出して寝てるってナオに聞いて、心配したよ。 今は下がったみたいだけど、気分はどう?」


寝ている私を気遣ってか、部屋の明かりは点いてなくて。

暖をとるための火桶に残ってる炭が、所々で赤く灯っているだけだ。

だから、お互いの顔は見えないけれど、本当に心配してくれてたんだって、その声で分かる。


「寝たら、、、」

寝たらだいぶ楽になった、と言おうとしたけど、熱が出たせいか喉がカラカラで声が出ない。

コンコンッ、と何回か咳をすると、高氏がその場に立ち上がる気配がした。


「白湯を持って来てあるんだ。灯り、点けても良い?」


高氏は、頷く私は見えてないだろうけど、無言を肯定と受け取ったみたいだった。

部屋の外に置いてあった火種を取って来て、燭台に火を灯す。

ぼんやりと揺れる炎の明かりで、部屋の中の物が薄っすら形を表わし始めた。


見慣れた笑顔が浮かび上がって、なんだか安心する。


布団から上半身を起こそうとして、足首に痛みが走った。

「ほら。無理しないで。」

高氏は、そんな私の肩を慌てて支えると、近くにあった袿を掛けてくれる。


そして、私に湯呑みを渡すと、ゆっくり呑んで、と、白湯を注いでくれた。

あまりにも甲斐甲斐しく世話を焼くから、

足利の当主にやらせるようなことじゃないわね。
なんて思って、なんだか申し訳なくなる。


こんなところ、ナオや家人が見たら開いた口が塞がらなそうだ。
いや、ナオには確実に怒られるわね。


そんなことを思いながら、受け取った白湯を飲む。

乾いた身体に水分が染み込んでいくようで、ただの白湯がとても美味しく感じた。


「、、、ありがとう。」


そう言うと、高氏は私から空の湯呑みを受け取って微笑った。


「あの、、。心配かけて、ごめんなさい。」

「うん。 心配した。死ぬほど。」


素直に謝った私に、即答する。

しかも、顔は笑ってるけど声は笑っていない。


これは、、、。怒ってる、、? よね。


思わず肩に掛けられた袿を、前で合わせるようにキュッと握る。

ごめんなさい、ともう一度謝ろうとしたところで、高氏が軽く息を吐き出す。


「でも、別に桃李が悪いわけじゃないよ。よそ見してたのは俺だし。 偽名も決めてなかった。」


「怒ってないの、、、?」

顔を覗き込むようにして、恐る恐る聞いてみる。


「なんで桃李に怒るの?
、、、怒ってるのは自分に対してだよ。俺の方こそ、謝らなくちゃ。
危ない目に合わせて、怪我までさせて。ごめん。」

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