風花 〜彼方への約束〜

第四章 /雪中花 〜スイセン〜

霜月も終わりに差し掛かって、いよいよ寒さも本格的なものになってきた。


高氏と会った後、俺と正季は、一旦、京から摂津国へ抜けた。

そこから海岸線沿いに南へと下り、和泉国に入る前に進路を東に変えて河内国に入る予定だ。


本当は一刻も早く河内に帰って、俺たちの無事を知らせたいし、みんなの無事も気にかかる。


でも、赤坂城が落ちてからまだ一月しか経ってないこの状況では、どこで敵と鉢合わせするか分からない。


幸い、港町ともなると活気があって情報量も多い。

そこで、摂津国で情報収集も兼ねて商売しながら、ゆっくりと河内に向かっていた。



「あー、寒ぃな!今日はもう店仕舞いにしようぜ!」


正季が寒さから首筋を隠すように、両手で袷を引っ張りながら寄せる。


「そうだな。」


いつもなら、何言ってんだ、と突っ込むところだが、今日の冷え込みには俺も耐えられそうもなかった。


摂津国は、現代でいうと大阪と兵庫の辺りになる。

俺達は、ちょうど神戸のあたりから南下して、まもなく淀川に差し掛かるところだった。


この辺りは、雪は滅多に降らないけど、乾いた強い風が吹く。

こういう風が吹く時は、2〜3日は強い風が吹くだろうな、と冬の天気図を思い出しながら思った。


手早く店仕舞いを終えて、泊めてもらってる家に帰る前に腹ごしらえをしようと店に立ち寄る。



「おっちゃーん!なんかあったかい物!2人分!!」


店の扉を開けるなり、正季が大声で注文するのを見て、コイツの注文の仕方で良いのか!?なんて疑念を抱くけど、今までそれで問題なく飯にありついているので、今さら文句なんて言わない。


あいよー!と店の奥から返事が聞こえてきたので、正季と2人、空いている席に腰を下ろした。


少し待ってると、目の前に湯気が立った湯飲みがトントンと2つ置かれる。


「今日は寒いねぇ。あったかいもん用意するから、もうちょっと待っといておくれよ。」


そう言うと、おじさんは忙しそうにまた店の奥に戻っていった。


周りを見ると、繁盛してるようで半分以上の席が客で埋まっている。


まあ、寒いしな。


店の中でも暖房なんて無いから寒いのはあんまり変わらないけど、風に当たらない分、だいぶマシだった。


俺は、もらった湯飲みを両手で包むように持って、暖をとりながら、白湯を一口飲む。


熱いお湯が胃に染み渡るようで、はあ、と一つため息を吐いた。


「今日は商売あがったりだったなぁ、、。」

と、向かいに座った正季がボヤく。


見るからに、商売してます、って感じの出で立ちと言動で、誰から見てもこれが武士だとは思わないだろう。


お前、どこの商売人だよ!と突っ込みたくなるけど、商売人に扮しているのには違いないので、あながち間違ってはいない。


「まあな。でも、明日は淀川辺りまで行くだろ?そしたらもう少しマシなんじゃないか?」


正季とそんな無難な話をしながら、周りの客の話に耳を傾ける。


すると、俺らのすぐ後ろに座っていた3人組の声が耳に入ってきた。

「おい、聞いたか?

なんでも、河内国の赤坂城に湯浅とかいう奴が来るんだとよ!」


「なに!?そうなのか?」


「ああ、それ俺も聞いたよ。そいつ、湯浅党だろ?
確か、、、湯浅宗藤とか言ったか?
なんでも、今回の戦で功を立てたらしくて、鎌倉殿から地頭職を賜ったそうじゃねーか!」

0
  • しおりをはさむ
  • 11
  • 4
/ 388ページ
このページを編集する