風花 〜彼方への約束〜

転章 /〜 朝未だき 〜

判官様に見送られ、月影と共に京を出発してから数日。


こまめに休憩を取りながら進んでも、2人だけ、しかも馬を駆っての移動は、兵を率いてのそれより格段に早い。



「ネエさん、殿さん達は昨日、ここを発ったそうです。もうすぐ追いつけますね。

鎌倉に入る前に合流出来そうで良かった。」


街道沿いの店で一休みしていた私に、情報収集から戻った月影がそう告げた。


「そう、、。ありがとう。」


早く鎌倉に帰りたいと思ってるのは本当。

でも、高氏と会うのは京で変な別れ方をした以来だったから、なんとなく気まずくて。


それに、京で聞いたあの声が今でも耳に残っていて、へんな焦燥感を抱かせる。


自分の中でいろんなことが渦巻いていて、その複雑さが顔に出ていたのだろう。


「まったく、、、なんて顔してんのさ。やっぱ、鎌倉に帰るのやめますか?」


「な、何言ってんのよ!」


「今ならまだ、ネエさんを攫って誰も知らない所へ逃げることも出来ますけど?」



へ!?


思いがけない言葉に、思わずドキッとして月影を見上げると、そんな私を見て月影は可笑しそうにカラカラ笑った。



もう!!揶揄ったわね!



冗談だって分かっていても、いちいち反応してしまう自分も情けない。


「ふざけたことばっかり言ってないで、月影もしっかり休息取ってよね!!」


置いて行っちゃうわよ!とジロッと睨みながら、空いている湯飲みに白湯を注いで月影の前に置く。


まあ、本当に置いて行ったら路頭に迷うのは私の方なんだけど、、、。


月影は、はいはい、ありがとうございます。と、隣に座って白湯を飲んだ。



なんだかんだで、すっかり仲良くなった月影とも、本隊と合流してしまえばそこで別れなければならない。



月影は忍びだから。


容姿のこともあるし、表立っては生活することは出来ない。


また高氏の命を受けて、名の示す通り、月の影となり光となってあちこち走り回るのだろう。




金髪と深く青い瞳を隠すために、笠を被ったその横顔を覗き見る。



「ねえ、月影。」


「 ? なんですか。」


そんな改まって、と不思議そうに首を傾げる。



「 ありがとう。」


私は、月影に向かって頭を下げる。


「え? あ、うわっ!熱っ!!」


ちょっと、やめて下さいよ!と、今度は月影が驚いて慌ててる。
持ってた湯飲みを危うく落っことしそうになっていた。


私はふふっと微笑って、そんな月影を見る。


「だって、なんだか言いたくなったんだもの。」


きっと、こうやって一緒にいれるのは後少しだと思うから。

今のうちに、きちんとお礼が言いたかった。


月影には、本当にお世話になったから。



「頭なんて下げないで下さいよ。」

顔を少しだけ赤くした月影が、バツが悪そうに目をそらす。


「 良いじゃない。 頭は下げるものじゃなくて、下がっちゃうのよ! 」


「、、、!」


そう言った私に、何かを思い出したのか、月影が楽しそうに笑った。


「、、、本当に、良く似てる。」


ポツリとこぼした月影のこの一言を、この時、私は気にも止めなかった。



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