溜め息 第一部【完】








僕の憂李なのに。


僕だけの、彼女になったはずなのに。




恐怖と焦燥感に迫られる。




今ここに彼女がいないからかな。


それとも、この瞬間に憂李を抱き締める事が叶わないからかな。




とにかく、太一の次の言葉が早く聞きたくてたまらなかった。





「悪い郁。」



けれど…。




「それだけはどの情報網にも引っ掛からなかった。」



申し訳なさそうに表情を崩し、お手上げだと言わんばかりに両手を上げた親友に、大きく落胆すると同時に少し安堵している自分もいた。




「ただ、成瀬さんがヤクザの女だとか暴走族の女だとか言われているのは、その柳生海十といる所を目撃されていたりするからだろうな。」

「………。」

「正直言えば成瀬さんと柳生海十の関係はグレーだ。それでも郁、お前は成瀬さんを愛せるのか?」




心配を湛えた瞳で僕を射抜く太一なんて珍しい。

滅多な事じゃないと僕の事を案じたりしない奴なのに。



…否、昔から太一は何やかんやで最後は己の優しさに負けて僕を助けてたっけ。




「今更それを聞くの?」




肩を竦めた僕の口許に浮いた、自嘲的な笑み。




「自分の意思とは関係なしにもがくのが恋だって僕に教えたのは太一でしょ。」

「そうだけど…。」



そこまで言って、口を噤む相手の言わんとしている事をすぐに悟った。


分かってる。


いくらなんでも成瀬さんは危険だ。きっと優しい太一はそう言いたいんだ。





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