溜め息

第一章 /溜め息二







保健室から出た僕は、欠伸を一つ落とした。


乱れた制服を直しながら、携帯で時間を確認する。



午前11時30分。





「…今日はいるかな。」



自然と動く足は軽やかだ。


授業中の学校はただただ静寂で、まるで僕一人だけしか存在していないかのような錯覚にすら落ちる。


この感覚が、好きだ。



僕の足が真っ直ぐ向かうのは屋上。


ドアノブに手を掛け閉ざされた鉄の壁を開く。


太陽の陽射しが足元を照らし、視界が眩い光で白く染まる。

明順応っていうやつだ。



徐々に正常に戻る世界で、揺れる黒髪を見つけた。



今日は会えた。



その黒髪に手を伸ばして、僕は華奢な身体を抱き寄せた。



「きゃっ……。」



可愛い声が耳を擽る。


それに胸が締め付けられる。




「驚かさないでよ、郁。」

「びっくりした?」

「うんすっごく。でも嬉しい…郁に会えたから。」




甘い言葉が甘い声で吐き出される。




「今日は憂李がいる気がしてたんだ。」




静かな学校の屋上は、僕と彼女の二人きりの世界だった。








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