溜め息 第一部【完】

第六章 /溜め息十六









あっさりと暴露された事実に驚愕を隠せない。


県警のトップの息子が暴走族の幹部なんかをしていて良いの?




「権力は持っていて損はねぇんだよ。」

「嫌味じゃん。」

「てめぇだって憂李ちゃんの彼氏っていう随分嫌味な肩書き持ってんだろうが。」

「憂李の事馴れ馴れしく呼ばないでよ。」




僕だけがあの子の名前を呼んでいたい。

そんな独占欲で埋め尽くされる心。




「うるせぇな郁。」




ちょっと待って、僕の名前まで呼び捨てなの?


距離の縮め方が強引な相手に冷たい視線を送っても、意地の悪い笑みで跳ね返されてしまうだけらしい。




「女みてぇな名前だよな。」

「うるさい。」



こいつ、絶対確信犯だ。


中指を突き立てた僕を見るなり腹を抱えて笑う西門が、バーの店内で雪峰を相手に、殺気を纏っていた人間と同一人物だとはとても思えない。





「喧嘩売るとか良い度胸してんな郁。」

「名前で呼ばないでくれる?」

「良いじゃねぇか、美人なお前にぴったりだ。」




それ微塵も褒め言葉じゃないじゃん。寧ろ嫌味だ。

呼び方を変える気なんてない様子の西門は、喫茶店の扉に手を掛けながら僕と視線を合わせた。





「でもまぁ、中身は美人ってより男らしいんだろ。」

「え?」

「だから海十はお前を気に入ってるんだろうし。」

「……。」

「ほら入れよ郁、お前はもう後戻りなんてできねぇぞ。」




開け放たれた扉。


その奥へ行けと顎で示唆する西門の放った一言に、僕は深く頷いた。





「そんなの、憂李を愛した瞬間から覚悟してるよ。」





躊躇いなんて少しもない。


僕の足は薄暗い店内へと、真っ直ぐ伸ばされた。






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