溜め息 第一部【完】

第二章 /溜め息三






創世記において、アダムとイブに林檎を食べるようそそのかした蛇の如く、成瀬憂李に手を伸ばして食べてみれば良いと僕を唆す太一。


案の定、もとより不安定だった僕の心理はぐらぐらと揺れ動いた。





「成瀬さんに接触した時点である意味禁忌を犯しているようなもんだろ。ここまで来たなら後戻りなんてできないんだから悔いのない行動をするだけなんじゃねーの?」




禁断の果実に手を伸ばす。

禁断の果実に食らいつく。



その行為は、まさに僕が躊躇していた事そのもので、それをも容易に見透かしているらしい親友は目を細めた。




「まぁ、創世記では、果実を食べたアダムとイブはエデンの園を追い出されたけどな。」

「駄目じゃん、死亡フラグ立ちまくりでしょ。」

「そうとも限らないだろ。俺なら勇気をもって好奇心のままに果実に手を伸ばした方が後悔しない。永遠に気になったまま果実が腐って朽ちるのを傍観するよりは良い。」




真剣な表情で断言した相手に、確かにそうかもしれないと思った。



憂李と云う禁断の果実に不用意に接近した癖に、僕はその先に進む事を踏みとどまっている。



本当は気になっている癖に。

知りたいと思っている癖に。




その果実の感触も、味も。




僕の本心は触れたいと願い、そうなる事を渇望している。




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