溜め息 第一部【完】

第二章 /溜め息五






好きになって欲しい。

僕を、好きになって、憂李。



耳元で、小さく息を呑む音が聞こえた。

僕の背中に、彼女の手が回される。


それだけで胸がざわめく。

大きく揺すられる。




好き。

彼女の事がただただ好き。

どうしようもなく、好き。



僕はすっかり、全身の隅から隅まで。

成瀬憂李という存在に毒されている。



僕達を包むように秋風が吹き、頬を撫でる。



「……になるよ。」



耳を擽る甘い声。



「憂李?」

「私といるときっと郁は不幸になるよ。」

「何言って…「汚れるの。郁はきっと汚れちゃう。」」



吐かれたのは、拒絶の言葉。

密着していた身体が離れる。


彼女が僕の腕の中からすり抜けた。



「郁には汚れて欲しくないの。」

「そんなの関係ないよ。」



大きく開いた距離。

僕はすかさず彼女の手首に手を伸ばした。



「だから駄目…これ以上は駄目。私、郁を汚したくない。」



目線を降下させ、頭を横に振る彼女。


僕を汚す。

僕が汚れるのは嫌。


それだけを口にする彼女は…。



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