溜め息 第一部【完】

第三章 /溜め息七








薬品の独特な匂いが鼻を突く空間。



「郁、セックスしよ。」



ベッドで寝ていた僕の上に跨った女がブレザーを脱ぎ捨てた。



「いつの間に来たの。」

「ふふっ、郁が来るかなって思って隣のベッドで待ち伏せしてたの。」




「そしたら本当に来た。」そう言いながら、シャツの釦を一つ、また一つと外していく姿は品格の欠片もない。


保健室の簡易的なベッドでは、二人が乗るだけでスプリング音が激しく鳴る。



「郁も脱いでよ。」

「遅い。」

「きゃっ……。」



僕のお情け程度に結ばれたネクタイに伸ばしてきた女の手を捕らえた僕は、そのまま引き寄せてベッドに沈ませた。


染められて傷んだ髪。

僕が求めている髪とは全然違う。



欲情を孕んだ瞳。

僕が求めている透き通った瞳とは全然違う。




「脱ぐの、遅い。」

「ん…んんっ……。」



首筋に顔を埋めながら、中途半端に外された女の釦を僕の手で外していく。


徐々に露わになる肌。


首を撫でただけで大袈裟に発せられる声。



全然違う。満たされない。


僕が求めているのはそう、儚く微笑む彼女だけ。



「あのさ。」


大きく響いた僕のその声と同時に、熱を帯び始めた行為は停止した。




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