溜め息 第一部【完】







「ずっとずっと会いたかったんだよ。」

「郁?」



ベッドから僕が降り立てば、大きく軋んだベッドの上で残された女が僕の名前を呼んだ。


この名前すら、彼女以外に呼ばれると嫌悪感しか募らない。



「会いたくて会いたくて、それでも会うのが少し怖かったりもして、それでも結局会いたくて。」



恋なんて全く煩わしい事この上なくて。


苦しいし、辛いし、胸が張り裂けそうになるし、病に冒されたように頭は彼女の事でいっぱいになるし。


それでも、想いを止める事はできなかった。



「どうしても駄目なんだ。やっぱり、どうしようもなく好き。僕をここまで可笑しくした責任、とってよ。」




閉ざされた扉に手を伸ばし、それを開けば、その先にあったのは艶やかな黒髪だった。






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