微熱恋情【完】

Chapter.1






恋は甘いと言うけど、そんなの嘘だ。

彼の微熱じみた体温も微かに甘い香水の香りも私に苦しさと切なさをもたらすばかりで、誰かの語る甘い幸せなどわからない。



弓張月に見下ろされた狭い密室には微かに甘い香りが漂い、それはいつも私の呼吸を少し妨げた。

小難しい英文をさらさらとシャーペンで書き写しながら頭の中で訳を導く。英語は求めればいつだって誰かが正解を知っているから好きだ。





「彼は彼女をそっと抱き寄せた?」

「正解」



高揚のない穏やかな声が響く。

サラリと揺れる黒髪がしきりに私の視界に入り込むものだから、なんだか落ち着かない。


外ではキッチリと締められている彼のロイヤルブルーのネクタイは、この狭い密室にふたりきりの今は気だるげに緩められていた。



個別指導塾は一人の生徒につき一人の講師が付きっきりで指導してもらえるため、一般的な学習塾よりも密度の濃い指導が受けられる。



だが時に、例外が発生する場合もある。

例えば、講師が不真面目である場合。

これは残念なことに私にも当てはまる例外で、彼がその不真面目な講師。







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