愛を、もう一度 【前編】

愛を、もう一度 /1991年





――1991年7月28日


私の生活は変わった。
朝8時に起きて朝食を作る。掃除をして父とお昼ごはんを食べてから父の通院に付き添う。

夕方になると、事前に集めていた本や参考資料などでバーテンダーの勉強をした。

そして17時20分。
まだ心配そうな顔をする父に見送られて、私は家を出た。
マンションからバイト先のBarまでは歩いて15分。出来るだけ明るい道を通って、暗い裏道にあるBarに向かう。

私が働くBar「RED(レッド)」は、意外にも歓楽街から少し離れたビルの地下一階にあった。
クローズになっている店の入り口を開けると、カランッという喫茶店のベルの音(ね)のような音が鳴る。


『…おはようございます』

「かおりちゃんおはよ。相変わらず早いね」


REDのマスターである赤城(あかぎ)さんが右手を挙げて応えた。
赤城さんは昔“叔父さんにすごくお世話になった”人らしい。
そのおかげで私が未成年であることもまだ15歳であることも全て承知で0時まで働かせてもらえることになった。

36歳という年齢よりも若く見える赤城さん。
精悍な顔つきで中身も男らしくて自信に満ち溢れた姿は、女性だけでなく男性からもモテる。私がREDで働き始めてまで一ヶ月も経たないのに、赤城さんが女性客のみならず男性客にまで口説かれる姿を何回か見た。


「美紀にも見習わせてやりたいもんだ。あいつなんてもう3年目になるのに、まだあんな落ち着きのない化粧と恰好で」

「ちょっとマスター!人の悪口ならいないとこで言ってよ」

『美紀さん…おはようございます』

「あ、おはよ!かおりちゃん」


私の後からふくれっ面の美紀さんが店内に入ってきた。美紀さんはREDでホール担当として働く25歳のお姉さん。
いつもボディコンのような体にぴったりと張り付くワンピースに身を包んで、真っ赤な口紅をつけている。

見た目こそ派手で夜の女の匂いがするけれど、実は某国立大学出身の才女。初対面のときに学生時代の写真を見せてもらったけど、今とは想像も出来ないような真面目な女の子だった。

そんな才女が大学卒業後、大手企業の内定を蹴ってREDで働くことを選んだのは…。

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