愛を、もう一度 【前編】

愛を、もう一度 /1991年






――1991年7月29日


19時オープンのREDは30分も過ぎると、狭い店内にどんどん人が流れてくる。
カウンター席が8つ、ボックス席が6テーブルしかないRED。
そのほとんどが常連のお客さまだ。常連のお客さまに連れて来られた新規のお客さまもいつしか常連さんになる。その繰り返し。
そんな繁盛店にも関わらず、赤城さんは店を広くすることもしなければ従業員を増やそうとも思っていないようだった。


「かおりちゃん、これボックスBに。青い珊瑚礁とギブソンね」

『はい』


何百種類もあるお酒の名前は少しづつ覚えている。アルコールをメインに扱うお店で働く以上、飲めなくても知識がなければ話にならない。

最近は仕事までの夕方の時間だけでなく、家に帰ってから寝るまでの1時間も勉強時間に費やしていた。
赤城さんに言われたわけでもないし、仕方なくそうしてるわけでもない。私も美紀さんと同じように純粋にREDに惹かれていた。

REDは、この界隈では珍しくクラブミュージックではなくジャズミュージックが流れるBarだった。
だからこそ、お客さまの年齢層も20代~60代くらいまで幅広かった。

どんなに店内にお客さまが溢れても、馬鹿みたいに騒がしくなることはなく、だからといってしっとり静かなわけでもなく、節度をもった盛り上がり方をしていた。そのいいバランスが、私の描いていたBarの印象を良い意味で裏切ったのだ。

赤城さんの目の届く範囲に全てのものや人があるからこそ、おかしなことをする人もいなければ客同士の言い合いが始まることもなかった。

ここにくるお客さまは、REDが好きで、赤城さんが好きで、純粋にお酒が好きな人たちばかりだった。
だからこそ、REDはお客さまにとってもスタッフにとっても居心地がいいんだと思う。

赤城さんが頑なに大きなお店に移転しようとしないわけは、きっとそこにあるのだろう。



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