愛を、もう一度 【前編】

愛を、もう一度 /1991年





――1991年8月27日



REDは21時を過ぎると第一ピークになる。
店内の人口密度が上がって、アルコールと煙草の匂いが一気に充満するのもこの時間からだった。


「かおりちゃん、カウンター入って」

『はい』

お客さま全員にお酒が行き渡り始めた頃合いを見計らって、私は赤城さんに呼ばれてカウンターの中に入った。今日もまた注文が入らない間、赤城さんにマンツーマンでカクテル作りの基礎を教わる。新しいことを毎回教わるというよりも基本を何度も何度も繰り返していた。


「じゃあ、ステアは?」

『ミキシンググラスを使用して、バースプーンでよく混ぜて作る方法です』

「OK」


カウンター席の常連さん(おじさん二名)はまるで余興でも見るように、「今日も始まったか!」と楽し気な顔でそう言うと私と赤城さんの様子を眺めていた。

西浦幸人と永瀬サツキは今日も来ていたけど、知らない男性二人とボックス席に座っていたから気にならなかった。


「バースプーンはただ持つんじゃない。中央のらせん状部分を中指と薬指で挟んで、その上を親指と人差し指で軽く持つ…そう、こうだ」

『…こうですか?』


赤城さんが空のグラスとバースプーンで見本を見せてくれた。私も赤城さんの見よう見まねで、言われた通りにやってみる。


「そう…もう少し寝かせるように」

『はい』


赤城さんの指導にも熱が入る。
私の後ろに回って、手を重ねて持ち方を教えてくれる。女性客と美紀さんの視線が痛かったけど、気にせず集中した。


「グラスでもミキシンググラスでも必ずスプーンの背が上を向くようにするんだ。グラスの向こう側のふち近くから入れて、出す時も同じ。スプーンの背が上を向くように」

『はい…』

「弧を描くように…そして、なめらかに抜き取る」


まるで二人羽織りのように、赤城さんの手でバースプーンの持ち方と容器への出し入れの感覚を教えてもらった。


『…難しいですね』

「だろ?ただ混ぜるだけじゃなくて、ステアは繊細な感覚が必要なんだ」


得意げに話す赤城さんは少年のように無邪気な笑顔を向けてくる。
本当に純粋にBarやカクテルが好きなのだと思った。


『…一人でやってみてもいいですか?』

「ああ。やってみ」


赤城さんに習ったように、バースプーンの中央のらせん状部分に中指と薬指で挟んだ。そして、その上を親指と人差し指で軽く持って弧を描くように回して、その流れですっと抜き取った。

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