悪魔の母性

プロローグ



「…ねえねえ。そっちのプレゼントちょうだい?」

 とある地方の住宅街。その一角に位置する小さな公民館で、町内会が主催するささやかなクリスマスパーティーが催されていた。

 ジングルベルのBGMが流れる中、つい先ほどまで行われていたのはプレゼント交換会だ。パーティーの参列者達が輪になり、各自用意してきたプレゼントを順々に巡らせていって、ある程度回ったところでストップをかける。その時、手にしていたプレゼントがもらえるというルールだった。

 だが、そのプレゼント交換会が終わった直後、一人の少女が隣に座っていた者にそう声をかけた。「えっ?」と条件反射的に振り返ったその者も同じ年頃の女の子であり、彼女は緑色の小さな箱を抱えていた。

「サキ、そっちの方がいいの。ねえ、とりかえっこいいでしょ?ちょうだいちょうだい!」

 そう言って駄々をこねだしたその少女は、ピンク色のフリルが目いっぱい付いた可愛らしい服を着ていた。緩くカールのかかった長い髪にもこじゃれたリボンを結わえていて、つるりとした肌の色も重ねれば、まるでフランス人形のような美しさを窺える。

 一方、彼女が欲しがるその緑色の小さな箱を抱えた女の子は、まさにどこででも見かけるような平凡な出で立ちであった。

 せっかくのクリスマスだというのに、特におしゃれをする訳でもなく、少々色落ちしたオーバーオールを身に着け、二つに結わえた髪を三つ編みにしている。その不揃いに切られた前髪の向こうからは、何か言いたげな瞳がゆらゆらと揺れていた。

「サキちゃん、ワガママを言うのはやめなさい。お友達が困ってるじゃないの」

 駄々をこねる娘を見かねた母親が諫めにかかるが、少女は元から持っていた手のひらサイズの袋をじっと見てから、いやいやと首を横に振った。

「いや!サキ、こんなお菓子はもう飽きちゃったもん!ミナちゃんの持ってる方がいいの!ちょうだいちょうだい~…!」

 少女は半泣きになりながら、くどいまでに「ちょうだい」を繰り返した。それに根負けしたのか、やがて三つ編みの女の子の口から「…うん、いいよ」の返事が出た。

「はい、サキちゃんどうぞ」

 女の子は、緑色の箱をそうっと差し出す。その箱はすでに封が開けられていて、彼女が前から欲しかった物が入っていた。

「わあ、ありがとう」

 少女は女の子の手から何の遠慮もなく箱を取り上げると、すぐさま自分の手にあったお菓子の袋を押し付ける。そして、実に嬉しそうにニコニコと笑った。




 これが、最初だった…。

0
  • しおりをはさむ
  • 2
  • 15
/ 262ページ
このページを編集する