悪魔の母性

第六章 過去(3)



 中学時代の石井美奈子は、相変わらず『光のこども園』で暮らすどの子供よりも早起きをし、手早く朝食や支度を終わらせると、いつも足早にバスの停留所へと向かっていた。

 小学生の頃は、とてもつまらなかった。

 学校の中で親しい友人を作る事ができなかった彼女にとって、そんな場所に向かっていくバスの中で過ごす時間は、ただただ苦痛だった。

 もちろん『光のこども園』には同世代の子供が何人かいるが、ずっと寝食を共にしているものだから、どちらかといえば親戚に近いような気分だ。美奈子の中で考えている「友達」というイメージには程遠かった。

 小学校へと向かっていくバスの中は、道を進んで停留所に到着するたびに、少しずつ騒がしくなっていく。途中から乗り合わせてきた他の子供達が楽しそうにおしゃべりしているのを、美奈子はいつも一番後ろの窓際の席で知らないふりをしていた。





 そんな美奈子に初めての友人ができたのは、小学四年生の冬の事だった。

 隣の市の公民館で、とある町内会が主催するクリスマスパーティーが執り行われていたのだが、そこの責任者が西上タエと友人同士という事もあって、特別に『光のこども園』に籍を置く全員が招待を受けた。

 パーティーといっても、それほど大掛かりなものではない。

 三十畳程度の広さしかない公民館のあちらこちらに、折り紙をメインとした手作り感満載の飾り付けが貼りつけられ、上座にある黒板には『メリークリスマス!』と大きな文字が書かれているだけ。後は持ち寄られたお菓子やケーキ、ごちそうなどを自由に食べて、最後にプレゼント交換会をするという実にささやかなものだった。

 だが、そんなささやかなパーティーでも、『光のこども園』の子供達は喜んだ。

 少ないながらも必死に貯めたおこづかいで交換会用のプレゼントを用意し、自分達が持っている中でもなるべくきれいな服を着て、にこにこと嬉しそうに笑っている。

 そんな子供達を見て、タエは友人の誘いに甘えてみて良かったと思いながら、自分の傍らで静かに佇んでいる美奈子に声をかけた。

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