悪魔の母性

第九章 過去(5)



 石井美奈子から全ての過去を聞かされた翌日、湊は非常に面白くない気持ちで朝を迎えた。

 美奈子はずいぶん慎重に言葉を選んで話を進めてくれたが、自分の存在が母親の贖罪の為だけにあったのかと思うと、ひどく心が痛んだ。

 それをすぐさま察したのか、話が終わった後でうつむき加減となってしまった湊に、美奈子はとても穏やかな声色で言った。

「先ほども言いましたよ?湊坊ちゃまと共に過ごせた日々があるからこそ、今の私があると」
「でも!でもお母さんのせいで、美奈子さんは…」
「誠太郎君と瞬の事は、もう…。それに流産とは言っても、瞬はほんの一時生きてこの世にいましたから。わずかな時間とはいえ、生まれてこれてあの子も幸せだったと思います」

 それは瞬って子の立場から言える事で、美奈子さんは違うじゃないか。そう言いたかったのに、子供であるがゆえの口の回らなさで、湊は何も言えなかった。

 話の内容から察するに、きっと美奈子は瞬の小さな身体を抱きしめる事すらできなかっただろう。誠太郎の死に顔すら見られなかったに違いない。

 自分の母親のワガママのせいで、大事な家族を二人も失った。そんな悲しみや怒りを押し殺すだけでも大変だっただろうに、こうしてまた同じ事を繰り返して、僕の側にいる…。

「美奈子さん、ごめんね…」

 呟くようにそう一言告げると、湊は美奈子の元より立ち去って、借りている部屋へと入った。そしてあまり眠れないまま、朝を迎えてしまった。

 面白くない。本当に、面白くない。自分と母親のせいで、大事な女の人があんなにも苦しんでいる。僕達のせいで――。

 お母さんと美奈子さんが出会いさえしなければ、何もかもが大きく変わっていたはずだ。湊はそう考え始めた。

 もしそうだったなら、お母さんは誰とも揉める事なく女優の道に進んでいただろうし、美奈子さんは誠太郎さんや瞬君とごくありふれた日常を送っていたはずだ。

 二人が出会い、悲劇が起きて、そして自分が生まれてきてしまったから、こんな大それた事をしでかした今がある。

「親子二代で美奈子さんを苦しめて、どうすんだよ…!」

 湊は、今さらながらに後悔した。

 今回の計画を実行してしまった事。そして、自分という存在がここにあるという事を。

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