月の女神に魅せられて SS 【完】



――――……



昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。やけに深いため息を落として立ち上がったモッチー。


原因は


五時間目 美術



「モッチー、マジ画伯だよな」


「…………」


「それはあれ? キュビスム? シュルレアリズム?」


「…………」


「もしくは……カミナリ様?」


俺の知るモッチー唯一にして最大の弱点。


それはこの芸術的なまでにセンスのない絵。


いや、ある種芸術的なのかもしれない……俺には理解できないけど。


今日の課題は良く見かけるローマな感じの男性石膏のデッサン。


だけど、俺にはどう見てもモッチーのそれは、全身緑のタイツに緑のアフロのカミナリ様にしか見えない。


角がないのがせめてもの救いだ。



いや、ほんと何でもパーフェクトにこなすくせに、美術だけは周囲を笑いの渦に巻き込むか、モッチーを笑い飛ばす勇気のない奴等は困惑して苦笑いするしか出来ない。


「いや~! モッチー良いよ! 俺やっぱ、お前を嫌いになれないよ」


そう言って爆笑する俺に


「そりゃどうも」


さも迷惑そうな視線を向けた。


何でも完璧な人間に憧れたりするけれど、どこか人間臭さのある弱点があるほうが親しみやすい。


もしかしたら、この御曹司様はそこまで計算済みだったりして……と思わなくも無いけれど、クラスメイトとして接するモッチーは意外と普通に面白い。


始めはすげぇお高く留まっているような嫌な奴かと思いきや、クラスに居ると普通にその場に馴染んでるし、話しかければ無視されるようなことはない。


いつも面倒くさそうではあるけれど、悪い奴じゃないと、俺は思ってる。


「ん?」


思わずモッチーを見つめていた俺は、珍しく微かに笑うモッチーに首を傾げた。


モッチーが笑うなんて珍しい。


だから、ちょっと嬉しくなって


「何々?」


問い掛けたのに




「お前のは、八百屋のおばちゃんだな」




クスクスと笑いながら俺のデッサンを指差すモッチーは……やっぱ嫌な奴かも!!!





...END

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