月の女神に魅せられて SS 【完】

Our First Love? /measure 1. 乙女の心理





学生や社会人の多くが浮かれる金曜日の夜……


今日も変わらず、音と光と活気に溢れるNo.14のカウンター席で



「はぁ~」



この場にはそぐわない深いため息が出る。


「どうしたの? カズキと何かあった?」


カウンターの中から私にジンジャーエールを差し出してくれた新米店長の翔太さんに曖昧に笑うと


「店が辛気臭くなるから、帰れよ」


洗い上げたグラスを拭きながら相変わらず辛辣な言葉を吐く修太さん。


「嫌です~」


修太さんにベェっと舌を出すとうざったそうに舌打ちをされたけど、いつものことだから気にしない。


スツールをくるりと回して視線をフロアに流せばそこでは梨佳が楽しげにリズムを刻んでいて


最近ではよくNo.14に顔を出す梨佳は徐々にあの出来事を克服しつつあるみたい。


そして、そんな梨佳に限らず、No.14のフロアには今日も無数の笑顔が溢れていた。





何かあったかと言われるほど
何かあった訳じゃない……





だけど、再び椅子を半回転させてカウンターに向き直ると、自然とまた一つため息が零れた。


頭に焼き付いて離れないくだらない記事を振り払おうと、辛口の炭酸を喉に流し込むけれど、あんまりスッキリはしなかった。



「何々? やっぱ何かあったんでしょ?」


心配半分面白半分といった面持ちの翔太さんに再び問われるけど


「ほっとけよ、色惚けは」


バッサリ冷たい修太さんの声に思わず唇を尖らせる。


でもそんな修太さんに賛同するように


「そうそう、くっだらないこと悩んでんだから」


フロアから少し息を弾ませて戻って来た梨佳が私の隣に腰を下ろした。


「今日学校帰りに本屋で読んだ記事、真に受けちゃってるのよ」


そう言う梨佳の前には修太さんによって素早くカンパリオレンジが出される。



「雑誌の記事?」


首を傾げた翔太さんに梨佳が呆れたように頷いて


私の頭を悩ませている記事について話し出した。

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