捧げ華~濁りの君よ~【完】

陸章 過チヘノ前奏曲

気がつけば、季節は桜の頃をとっくに過ぎて夏へと近づいていた。



じりじりと蒸し暑い中、桜子と佳世は向かい合ってせっせと浴衣を縫う。



今週の課題は浴衣。いつも通り、桜子の家にてひたすら針を動かし続ける。



とは言うものの、既に佳世はうんざりとしながら針と格闘している状態だ。



今にも針と反物を放り投げそうな雰囲気に桜子は肩を竦めた。



「佳世」


「何よ」


「針、危ないわよ」


「まだ大丈……」



ぶ、と最後まで言い終わらないうちに佳世が指に針を刺した。



声にならない悲鳴にすかさず手拭いを差し出し、ついでに傷薬も寄越す。



「だから言ったのに……」


「手が滑ったのよ」



顔を歪めつつ指に傷薬を塗りたくる佳世は、ふと視線をずらした。



「ねぇ。言ってたのって、あの猫?」



その視線に釣られ、開け放しにしてある縁側を見て桜子は頷いた。



「ええ。『牡丹雪』よ」



そう言えば、縁側でうろうろとしていた黒と白の斑模様の仔猫が呼ばれたと思ったのか、とてとてとした足取りでこちらにやってくる。



黒地に散る白の斑模様がそう見えるから付けた名だ。



額に咲いた白の円模様が見ている者の笑いを誘う。



―――先日、桜子が助けた仔猫である。



桜子が意識を失ってしまった後、零が共に屋敷へ連れて帰ったのだという。



猫は二匹もいらん、お前が責任を取れ、と言われて引き取ったわけだが。



「『牡丹雪』……ねぇ。まぁ見えないこともないけど」



傍に寄ってきた牡丹雪を見て佳世が苦笑した。









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