捧げ華~濁りの君よ~【完】

漆章 平穏ノ揺ラギ

「―――縁談?」



その言葉を聞いた途端、零の機嫌が一気に悪くなった。



「そう、縁談。貴方も25だし、そろそろ身を固めても……」


「お断りします」



母の言葉を遮り、零は部屋から退出しようと腰を上げる。



帰ってきて早々呼び出され、何かと思えば、縁談?



冗談ではない。



軍帽とサーベルを使用人から受け取り、帰ってきたばかりなのにも関わらず外に出ようとする。



「どこへ行くのかしら?」



案の定、追いかけてきた声に零は不機嫌を隠さずに振り返る。



「用事を思い出しました」


「逃げるの?」


「……何と?」



一段と低くなった声にも母は眉ひとつ動かさない。



「そうやって貴方はいつもいつも断って……。死ぬまで独り身でいるつもり?」


「女はまっぴらなんです」



苛立った口調で零が言う。



欲深く、ずる賢い。



涙の裏で打算を繰り返し、人に取り入ろうと媚びへつらう。



本心の見えない女は嫌いだ。



そんな女を傍に置くくらいなら、一生独り身でも構わない。



というか、むしろそれを望んでいるのだが。










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