捧げ華~濁りの君よ~【完】

拾章 残酷ナルハ策略ノ夜

―――どんなに悩み苦しんでも、季節は巡る。



自然の前では人の悩みなど些細なことだとでも言うように平穏に、確実に。



そうして、季節は夏真っ盛りである。



女学校も休みとなり、毎日が少し、単調になりつつある。



去年までは家のことや佳世の課題の手伝い、あとは銀座に足を伸ばしたりしていた。



しかし、今年の夏は東雲や牡丹雪が居る。



牡丹雪は昼間のうだるような暑さの時には姿が見えず、夕方の涼しくなる頃にひょっこりと戻って来る。



東雲は日を置いて気まぐれに現れ、何をするでもなく縁側に座っていることが多い。



去年にはなかった光景に違和感を覚えたのは一時で、慣れてしまえばたいしたことではない。



むしろ、欠けることが惜しいとすら思ってしまう。



―――まるで何事もなかったかのように時が流れて行く。



それが良かったと思うと同時に、胸にぽっかりと穴が空いたような感覚がひどく虚しかった。







「ああーーーっ!!」



けたたましく響いた佳世の声に、桜子はまたかと思った。



障子を開ければ、卓の上に大量の布を散乱させた佳世と縁側に座る東雲の姿がある。



佳世は針を持ったまま立ち上がり、東雲は相変わらずの無表情でそれを横目で見ている。



最早珍しくもなくなった光景に苦笑が漏れた。



「どうしてあんたがここに来るのよ!この疫病神!!」



針を持った手を突き付ける佳世に、東雲がかすかに眉をひそめた。







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