捧げ華~濁りの君よ~【完】

拾弐章 想イハ遠ノク君ヲ追フ

どうぞ、お引き取りくださいませ―――。



そう笑顔で言われ追い返されるのは、これで何度目だろうか。



さすがに五日も同じ用件で通えば顔を覚えられるだろうし、今日など見世に入ることさえできなかった。



金にならない客は追い返せとでも言われているのか、こちらが舌を巻くほど鮮やかな対応だ。



妙な感心を抱きながら、零は〈霧月屋〉と書かれた看板を見上げた。



時は既に夕刻。



仕事を終え、一旦屋敷へ戻って着替える必要があるため、いつもこの時刻になってしまう。



軍服という物は不思議な代物で、良い意味で目立つこともあれば悪い意味で目立つこともある。



今回の場合は後者だ。さすがに帝国軍人として遊廓に来るのは憚れる。



この花街は長く伸びた大路を中心に両脇に見世が並ぶ。



客らしき男たちの姿も多く、零は息を吐いた。



付き合いとして座敷遊びをすることはあるが、このような場所は正直、好きではない。



力に群がる女たちとは違う、どこか悲哀に満ちた空気に息が詰まる。



これ以上収穫はないと悟り、零は身を翻した。



花街の入り口へと戻れば、建物の影から東雲が姿を現す。



「大尉」


「追い返された。さすが、人の顔をよく覚えているな。これでは埒が明かな……」


「千条院家が動きました。こちらの動きを悟られたようです」



被せるように発せられた思いもよらない言葉に、零は目を見開いた。








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