捧げ華~濁りの君よ~【完】

拾陸章 不穏ナ跫音

「―――藤ノ宮大尉」



背後から追い掛けてきた声に、参謀本部の廊下を歩いていた零は振り返った。



廊下の向こうから能面のような顔をした東雲が歩いて来るのが見える。



立ち止まれば、同じく止まった東雲が手にした書類を差し出した。



「例の女衒に関しての最終報告書です。結局、婦女誘拐ということで警察に引き渡しましたが、問題はないでしょう。少し脅しただけですべてを吐いた輩ですから、あとは向こうの管轄でどうにかするかと」


「あぁ……ご苦労だったな。で、首謀者はやはり」


「貴方の考えていらっしゃる通りで間違いありません」



東雲の言葉に「そうか」と頷き、零は書類を脇へと抱えた。



廊下の真ん中で立ち読みするような代物ではない。



ふと視線を感じれば、こちらを凝視する東雲と目が合った。



ひどく何か言いたげな顔をしており、零は眉根を寄せる。



「他に何か用か」


「いえ。ただ……随分と派手にやらかしたようで」



お噂はかねがね、と下手をすれば嫌味にしか取れない口調に零は額を押さえた。



「……どこまで知っている」


「全容は知りません。ですが、千条院少将の娘が日崎桜子を刺し、それが記者たちの知られるところとなったので千条院家と藤ノ宮家が血眼になって記事の揉み消しに走ったとか。……あぁでも、一歩遅かったものもあるのでしたか」


「……素直に全部知っていると言ったらどうだ」


「いえ。何故貴方がそれを食い止められなかったのか、その理由がわかりませんから」



あくまで普段と変わらない口調で言うも、その眼差しはどこか剣呑な光を宿していた。









0
  • しおりをはさむ
  • 954
  • 943
/ 499ページ
このページを編集する