捧げ華~濁りの君よ~【完】

拾漆章 咲ク華、散ル花

桜子が千鶴子に呼ばれて藤ノ宮家の門をくぐったのは、季節が冬に移り変わった頃だった。



そろそろ雪でも降るのではないかという寒さの中、白木に案内されて千鶴子の元へ向かう。



零に遊廓から助け出された以降、藤ノ宮邸には訪れていない。



少し前まで我が家のような気安さで出入りしていたのに、しばらく見ないうちに圧倒的な威圧感が増している。



それでも見知った内装に懐かしさを覚えながら白木の後に付いて行くが、案内されたのは予想していた千鶴子の部屋ではなく、応接室だった。



それを不思議に思っていれば、しばらくしてから千鶴子が姿を現した。



相も変わらず、おっとりとした動作でこちらへやって来る。



「奥様。お久し振りにございます」



立ち上がって頭を下げれば、千鶴子がどこかやつれた顔で、それでも明るく微笑んだ。



「ご機嫌よう、桜子さん。怪我はもう大丈夫なの?刺されたのでしょう……?」


「はい。でも、もう大丈夫です。御心遣い、ありがとうございました」



桜子が詞季子に襲われた数日後、藤ノ宮家からの見舞い品がこれでもかと届いた。



それも金品の類いではなく、食料品がほとんどを占めていた。



返品しようにも『要らなければ捨ててくれ』の一筆付き。



折角の心遣いを無駄にするのも本意ではないので、有り難く受け取らせて貰った。



頭を下げる桜子に千鶴子は「良いのよ」と首を振る。



「こちらの事情にまた貴女を巻き込んでしまったのですもの。本当にごめんなさいね……まさか、怪我をさせてしまうことになるなんて……」



労るように桜子の肩にそっと触れ、千鶴子が眉をひそめる。



相変わらずの美貌だが、やはり疲労の色が濃い。



見ているこちらが心配になるほどだ。








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